高校での生物多様性保全と環境学習の取組み
大阪府立刀根山高等学校
2022.06.24
団体概要
刀根山高校は、1977年に開校し、3学年で約1、000人が在籍する府立高校です。阪急蛍池駅から東へ700mのところにあり、敷地内に裏山があるのが特徴です。 「Value
Everyone」(一人ひとりを大切に)の思いをもって、地域に根ざした普通科の高校として充実した教育活動を実施しています。
クラブ活動では、「生物エコ部」が裏山や地域との連携した活動を展開しており、2010年度と2021年度に、とよなかエコ市民賞を受賞されました。
裏山について
刀根山高校の敷地は、もともと大阪大学薬学部のキャンバスがあった場所で、薬学部が吹田キャンパスに移設されたことに伴い、跡地に同校が開校しました。敷地内の裏山は多様な樹種の入り交じる雑木林ですが、住宅街に囲まれた孤立林であるため、動物の食害がほとんどありません。学校内にあることから生物の持ち出しや持ち込みが比較的少なく、また、雑木林に必要な一定の手入れも実施することができています。また、大阪大学薬学部には薬草園があったとされ、薬草園由来の植物も残存しています。こうした理由から、300種類を超える植物、150種以上のキノコ、クワガタやタマムシをはじめとする昆虫など、多様な生物が生息しています。
近隣にある刀根山病院の緑地や大阪大学豊中キャンパスの緑地とともに、地域の生物多様性を支えている重要な環境資源ですが、高校としては学習資源としても活用したいと考えて、「生物科」・「家庭科」・「公民科(現代社会)」の授業でも活用しています。教科外では、高大連携実習として里山林の観察実習や植生調査の実習を、地域連携活動として地域住民や一般市民を対象に自然観察会や自然体験などの企画を行っています。
また、裏山の活用を通して、公民館、大学、こども園・保育園、地域自治協議会といったさまざまな関係団体と連携しています。在校生に多様な学習の場を用意する、近隣住民の理解を得る、維持管理に地域住民の協力を得る、地域への環境学習などで貢献するといった目的のためです。
生物エコ部の活動
刀根山高校の生物エコ部では、地域の生物多様性を保全することを基本目標として、裏山の自然の観察調査など、様々な活動を地域の方々と連携しながら続けています。
2015年からは、蛍池ホタル復活プロジェクトを開始しました。このプロジェクトでは、蛍池という駅名の由来となった蛍池地域に自然のホタルを復活させようというものです。地元の方への聞き取り調査で、1950年代まではこの地域でもホタルがたくさん見られたことがわかりました。さらに調査を進め、今でもゲンジボタルやヘイケボタルの餌となるカワニナが生息し、幼虫が上陸できる場所もあることがわかっています。
かつて蛍池地域にいたヘイケボタル(水生のホタル)は、周辺に生息する同じ遺伝子を受け継ぐホタルを採取し、産卵・ふ化、幼虫から羽化して成虫へと育てることに成功しました。当初は地域の水路に放流し、成虫も発生していましたが、水路の改修工事により、夏に水路が干上がるようになりました。
ホタルが繁殖できる場所がなくなったため、その後は校内の水槽で繁殖を続けています。2017年からは、近隣の住民に幼虫を育ててもらうホタルの里親制度も開始しました。2020年からは刀根山小学校と連携し、小学校のビオトープ池を改修して、児童が家庭で育てた幼虫を放流したところ、2021年にはたくさんの成虫が発生しました。
ヒメボタル(陸生のホタル)は大阪大学キャンパス内で幼虫を調査捕獲して、それを裏山のホタル再生地に放したところ2020年に発光を確認しました。さらに、2021年にも発光を確認することができたため、校内で繁殖していることもわかりました。
参考:
大阪府立刀根山高等学校ホームページ
https://toneyama.ed.jp/
伝えたい想い
生物エコ部の皆さんによると、地域の人々との連携しながら今後も地域にホタル生息地を再生させる活動を続けていくとのことです。また、ヒメボタルが校内に継続的に繁殖するように、裏山の環境を整えていくそうです。クラブの各部員は3年で高校を卒業してしまいますが、クラブとして活動を継続し、地域との連携を進めることでホタルの再生が進めることができています。今後も自然環境の保全と環境学習の両面から、刀根山高校での活動が広がっていくことを期待しています。